愛林館田援計画(でんえんプロジェクト)
第4回 グリーンセミナー 「再生のがっこう」ご報告     

2004年1月10日(土)〜11日(日)


 

今年度から始めた研修会「田援計画 愛林館グリーンセミナー」の第4回「再生のがっこう」は予定通り1/10−11に開催しました。

このセミナーは、これまで愛林館で行ってきた、棚田や森林について考える行事の集大成(というと大げさですが)でもあります。また、棚田や森林についての関心の裾野を広げる方向ではなくて、頂上を高くするという方向性を意識したものでもあります。

内容は、軽作業+お勉強+うまい食事+うまい酒です。

これまでは
第1回 棚田のがっこう 
田植え直後の美しい景色の中、水めぐりを見て歩き、社会学的に棚田保全の方向を考える。夜は炭焼きバーベキュー。ゲスト講師は前川氏(広島県立大教授)と徳野氏(熊本大教授)。

第2回 森のがっこう 
夏の暑い時期の作業、山の下草刈りをして植えた木を育て、川で泳いで涼む。夜は寒川水源のそうめん流し。ゲスト講師は吉井和久氏(林業家)。

第3回 炭のがっこう 簡単に出来るレンガの炭窯を作り、炭を焼く。夜は炭焼きバーベキュー。ゲスト講師は溝口氏(環太平洋浄化300年計画総裁)。

という内容でした。

今回は、まずはスローフードを体験しようと思い、合鴨鍋を夕食に考えました。そこで、本井さんに頼んで、10月から合鴨(水田出身)を飼っておいてもらいました。
合鴨農法は正式には合鴨・水稲同時作と言って、水稲の苗が小さい時(田植え後2週間くらい)に生後3週間程度の合鴨のひなを入れ、稲と合鴨が同時に育っていくものです。稲に穂の出るお盆の頃に水田から引き上げて、囲いの中で飼います。

合鴨の肉は、大きい肉屋に行けば売っているのですが、食肉用になるべく動かさずに育てたもので、肥満しているものがほとんど。水田の合鴨は、子供の頃から走り回っているので、健康です。肉質もずいぶん違うようです。「普段使っている合鴨とは別の鳥だ」と市内のフランス料理のシェフが言ったそうです。

合鴨は、足を縛って木にぶら下げます。そして頸動脈を切り、出血させて殺し、血抜きも同時に行います。生きている合鴨の首を刃物で切る(頭を切り落とすわけではありません)という行為は楽しいわけはないのですが、肉食をする以上はどこかで誰かが行わねばなりません。私も以前鶏の首を切ったことがありますが、首の骨がごりっと刃物に当たった感触は今でもはっきりと覚えています。

水田で働いた合鴨 合鴨を木に吊す

今回は希望者がいなければ私が切ろうと思っていましたが、皆積極的で、宮原町のMさん、福岡市のIさんが切ってくれました。熊本市のS君はその場面は見たくないということで、遠巻きにしていましたが。頸動脈を切ると、血がたらたらと流れ、痛そうです。しばらくは動いていますが、最後に羽根を伸ばして一度羽ばたいて、動かなくなりました。さっきまで生きていたものを、私たちが食べるために殺したのです。人間は生きるために、他の命を殺し続けなければなりません。それを実感するのも時には必要でしょう。

次に、合鴨の毛を抜きます。鶏よりも少し高温のお湯につけますが、水鳥なので、毛が水をはじいてなかなかしみ込みません。でも、すっかり冬毛に抜け替わっていたせいか、思ったよりも楽に抜けました。たき火で細かい毛を焼いて、屋外作業は終わりです。

羽根を抜く 細かい毛を焼く

室内に移って、今度は解体です。最初に足をはずし、手をはずし、内蔵を取ります。包丁を研いでおいたので、少しは楽だったかな? 鶏に比べ1羽から取れる肉はごくわずかです。内蔵は砂肝とレバーと精巣を取りました。

肉の次は、合鴨鍋の具つくりでした。今回は10人なので、全員にこんにゃく・うどん・豆腐を体験してもらいました。まずはこんにゃく芋を切ってゆでます。こんにゃくの講師は吉井さん。こんにゃく芋もあく汁も自分の畑の産物です。

芋がゆであがるまでに、小麦粉を混ぜてこねます。小麦粉は近所の方が育てて、近所の製粉所で粉にしたもの。講師は小島さんです。普段はそば打ちを教えることが多いですが、うどんももちろんお得意です。うどんは塩を溶かしたぬるま湯でこね、しばらく放置します。この間に、麦の中のグルテンと塩がつながって麺の腰になっていくのです。

うどんを放置する間、またこんにゃく作り。ゆでた芋の皮をむき、あくと一緒にミキサーで粉砕して形を作ってお湯に入れてゆでます。あとは30分煮れば出来上がり。

手打ちうどん作り こんにゃく作り

こんにゃくを作り終えたら、またうどん。今度は板の上で棒で伸ばして切ります。そばよりはうどんの方が失敗が少ないし、幅広に切ればいいのですが、皆ちょっと苦労していたようです。全員が切って、麺をもろふたに入れてとりあえずうどんは終わりです。あとは食べる直前に湯がきます。

ここで近所の小島さんの畑に行って、鍋に入れる野菜をもらってきました。白菜、大根、人参、それにうまそうだったので春菊。合鴨の首を切る時はあれほど抵抗があるのに、白菜を切る時は何の抵抗も感じません。命を絶つという点では同じことなんですけどね。ねぎは小島さんの畑にはあまりなかったということで、豆腐の講師の中村さんが畑から取ってきてくれました。

小島さんの畑から野菜をいただく 豆腐作り

戻ってきてようやく豆腐作りです。豆腐は作業を中断できないので、今回は後回しになりました。大豆は愛林館で周囲の農家から買い取ったものです。一晩水につけてふやかした大豆をミキサーで3分粉砕し、煮ます。煮立ったものに2回ほど水を入れて泡を消し(プロのお豆腐屋さんでは、泡を出さないように消泡剤を使います)、布で漉して豆乳を絞ります。

絞った豆乳ににがりを入れると、あら不思議。タンパク質が固まってきます。このにがりも、天草の松本さんが作った本物ですから味がいいです。また、豆乳は手で絞るので、非常に濃いところしか出てきません。プロはプレス機でぎゅっと絞るので豆乳も薄く、おからも味が薄くなります。こちらのおからは、豆乳分がたくさん残っていますから、そのまま味噌汁に入れて呉汁になります。この日は、おからが熱いうちにネギと人参をいれ、砂糖・塩・酢で味をつけておかずが一つできあがり。

合鴨のガラは一度煮こぼしてから、ネギと生姜と酒を入れてスープを取りました。
このスープと、杉本さんのいりこの出し汁を混ぜて、愛林館自家製の味噌(若い白味噌と、熟成をさせた赤味噌の両方)をとき、最後にナンプラーを入れて合鴨鍋の汁のできあがり。今回の鍋で買ったものは椎茸とエノキ茸だけでありました。いいでしょ?

夕食は、今日いろいろと教えてくれた講師陣と、明日の講師の吉井前市長とも一緒です。17人で三つの鍋を囲みました。いつもの合鴨鍋は、ガラスープまでは入っていないので、この日のは特にうまかったように思います。うどんも夕食途中でゆでて、最後に鍋に投入しました。焼酎は「亀五郎」がなかったので「五郎」を少々と、「天使のうたた寝」を買ってみました。熟成感はまずまずでしたが、香りが亀五郎よりちょっときついかなというところです。芋100%の焼酎「蘭」は香りが期待はずれでした。宴会の後、一部有志はジャンベを叩いたりシャカを振ったり、音楽教室にも発展しました。

みんなで合鴨鍋を囲む 吉井前市長の講演を聞いて、意見交換

さて、二日目はご近所でもある吉井前市長の講演「マイナスイメージからのまちづくり」です。私は吉井さんの講演やインタビューは何回か聞いているのですが、いつ聞いても面白いです。水俣病の歴史、その背景など、よくご存じだなあといつも感心しています。未認定患者に対する政府解決策を皆が認めるまでの経緯は、決して楽しいことばかりではなかったと思いますし、未認定患者は水俣病ではないけれど、水俣病でないわけではないというわかりにくい位置づけがなされています。

甚大な被害が出ているのに漁獲禁止という策を取らなかった政府の失敗も、危機管理の不在ですし、東京湾の同様の被害には迅速に対応したことに比べれば、地域差別(不知火海の小さいマチくらいどうなってもよかろう、みたいな)も私は感じました。

対立が激しい中でも、少しずつ話をしていくこと、共通点を見つけること、自分がまず変わってみせてから相手を変えようとしたことなどで一つ一つのもつれを少しずつほどいて行った経過も、大変な過程だったと思いますが、他の局面でも役に立つことと思いました。

その他にも、参考になるお話は山積です。「最先端の技術には未知の危険を内包しているものだ」という言葉も、いつの世にも当てはまるものだと感じました。

最後は例によって、参加者にカードを配って自由に案を出してもらう意見交換会で「私の水俣のまちづくり計画」です。実現可能性は無視して、思いついた案を皆で出し合うというものですが、結構現実的で面白そうな案も出てきました。私が一番気に入ったのは、Iさん発案の「日本一切ない初恋のラブソングコンテスト」。水俣出身で、残念ながら若くして他界した村下孝蔵氏のヒット曲に因んだものです。実は、知り合いに故村下氏の叔母さんがいるので、その方に話をしてみようかと思っています。放送局とタイアップできるといいですね。他に、常勤講師の吉井和久さんからもすごく良い案が出ました。これは真似されそうなので、敢えてメールではお知らせしないことにします。何が出るかお楽しみに。

この意見交換が非常に面白く、私はこのためにセミナーをやっているようなものです。まだ実現したものはないのですが、常に頭にあってヒントにはなっています。私が個人で考えることはどうしても固定していますから、そうでない角度からの意見が大変ありがたいです。

今回も、このように充実した2日間を過ごすことができました。来年度ももちろん開催しますが、第1回は4月上旬にタラの芽を取りながら山の手入れをして、森の働きについて考える「森のがっこうI」です。詳しい日時は決まり次第お知らせします。




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