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中級 棚田食育士養成 食育実践講座(前期) ご報告

〜農業がわかれば食育もおもしろい〜

2008年6月28日(土)〜29日(日)




「中級 棚田食育士養成 食育実践講座」を、雨の中予定通り開催しました。菊池市から来るMさんは、熊本ー宇土間の電車が雨で止まって遅刻を余儀なくされるという一幕もありましたが、水俣ではあまり雨がひどくなくて何よりでした。

さて、今回の講座は、昨年7月に初めて行った「初級 棚田食育士養成 食育実践講座」の続きです。都会の建物の中で行われる食育教室とは一線を画して、森と棚田と台所の一体性を感じながら食育を考えようというねらいでした。初級講座に参加し、日本初の「棚田食育士」になった皆さんを中心に、今回初参加の方も含めて9人の参加者がありました。

10時に集まり、簡単な開会式の後、田植えを行いました。愛林館で預かっていて、地元のTさんに管理をお願いしている28アール(=2800平方m、田の数は10枚)のうち、70平方mの狭い田に、赤米の苗を植えました。あまり降られなくて助かりました。泥の柔らかさ、稲の苗の頼りなさ、水の冷たさを感じ、柔らかい土に手で苗を植えられる(畑であれば、鍬が必要)水が雑草を抑える(畑であれば草取りは大変)といったことが実感できたのではないでしょうか。ちょうどTさんもいらっしゃって、話を聞くことができました。

開会式 田植えを始めるよー
雨の中田植え体験 田んぼの前で記念写真

棚田の水の取り入れ口を見て、昼前に愛林館に戻り昼食です。今回は伝統的な「さなぶり」の料理を再現してもらいました。さなぶりは田植えが終わった後の行事で、今年も収穫があるようお祈りをしつつ集まって飲食をします。「さなぶり」の「さ」は早苗や早乙女や桜の「さ」で、田の神様です。田植え時期に田に下りてきた神様がもう一度天か山へ登っていく「さのぼり」が語源ということです。桜は、田の神様(「さ」)が山からの上り下りに一時休む場所(「くら」)です。

山間部の久木野では、魚がご馳走ですから、さなぶりの煮しめに塩鯖が入るところが特徴です。他には赤飯とにゅうめん(暖かいそうめん)、酢の物を村丸ごと生活博物館の女性陣が用意してくれました。煮しめの中身はじゃがいも・こんにゃく(今回は手作りでなくてごめんなさい)・にんじん・竹の子(真竹とこさん竹)・厚揚げ(朝作った手作りの豆腐を揚げました)・干し椎茸(自家製)です。私は煮た塩鯖を初めて食べましたが、おいしいものですね。昔の塩鯖はもっと塩辛かったと料理のおばちゃんは語ってくれました。

赤飯は、香り米の万石100%!。小豆もKさんの自家製です。
愛林館では、料理の担当者がお客様と同席するようにしています。皆さん食事に関心がありますから、話も弾んでいました。
久木野のさなぶり料理 香り米の赤飯

午後はお勉強の時間。始めに主催者の霧島食育研究会と愛林館から簡単に活動紹介をしました。続いて、ゲスト講師の吉井和久氏より「日本の農業政策と農村の暮らしについて」と題してお話をしてもらいました。棚田農家であり、林業家であり、農協の理事でもある吉井さんは、実際に田を耕し、木をチェーンソーで倒している実感を元に、現在の農政の解説をしてくれました。石油の値上げに関連した農業資材の値上げ、食料不足に端を発した飼料の値上げ、あまり変わらぬ農産物価格、といった現状をどう打開していくか、そう簡単ではありません。でも、4ha以上の大規模農家と20ha以上の集落営農を中心に据えた農政というのは無理だろうなと私は改めて思いました。久木野のような棚田では、全く無縁の世界です。

続いて、午前中の料理をしてくれたKさんの畑を見学。旬の野菜(にら・しそ・うどの葉)と琵琶の実を頂きました。アブラナ科の冬野菜が完全になくなり、ナス科や豆の夏野菜がぐんぐんと育っていました。

Kさんの畑は宝の山 夏野菜がいっぱいでした。

夕方は「創作 里山のさなぶり料理」。2人1組になって、手持ちの野菜を見ながら献立を考え、3人分を作り、かっこよく盛りつけるというものです。献立を考えるのに15分、料理に60分と時間を限定しての料理は、かなりな圧力になったことと思いますが、時には必要でしょう。出来上がった料理は、六つ目籠、箱膳、木の板に乗せて美しく盛られました。卵・いりこ・鰹節以外は全くの植物性素材ばかりでしたが、すごくおいしい夕食が70分(少し時間オーバーだったかな)でできました。おいしい料理には時間と手間をかけないといかん、料理は時間がかかるという思い込みを打ち破るきっかけになったのではないでしょうか。

この器に創作料理を盛りつけます。 手早く作るのも食育士の仕事
旬の野菜を使って 盛りつけも大事
千葉先生の講評 いただきます!

夜の森の観察は、雨が激しいので中止。このところの雨と気温であれば、光る落ち葉もよく見えたことと思うのですが、残念でした。

実習の最後は焼酎文化講座。今回は目隠しテストで飲み比べです。芋焼酎2銘柄(すごくうまいものと普通のものと)・米焼酎2銘柄(常圧蒸留と減圧蒸留)・黒糖焼酎と麦焼酎(さすがに違いはわかったでしょ?)を出しました。違う焼酎を2種出して「二つは同じと思いますか、違うと思いますか?」と聞けば、違うと思ったけど同じかもしれんなどと思い始めて自信がなくなっていく人もいました。

さて、翌日は一汁二菜の朝食作り。夕食が60分ですから朝食は30分です。これもとってもおいしいものができました。

一汁二菜の朝食作り ぱぱっと朝食

最後の講義は「あなたにとって食育って何?」です。参加者には宿題が出ていて、食育の定義、それぞれが目指すこと、今後目指す活動を10分で発表してもらいました。

参加者のKさんが「初級棚田食育士の皆さんは、随分進歩したなあと思う」と言っていましたが、私も同感です。昨年7月に、理想の食育を考えた上で、「次の一歩は?」と皆さんに問うたのですが、その一歩から二歩へと足を進めた人が多かったようです。

あなたにとって食育って何? 地に足の付いた棚田食育士達

今回初参加の皆さんも、それぞれにめざすことを発表することで、自分の考えをまとめる良い機会になったはず。さらに、人の考え方を聞いて「ぼんやりしていたことが頭の中でまとまった」という参加者もいました。

食育の定義では、皆さんが共通して「食育は何かを実現するための手段である」と考えていたところは、私は大変安心しました。食育を通じて○○する、という立場にいれば、浅薄な食育ブームに踊って消耗することはないでしょう。

このようにして、充実した二日間を終えました。次回中級編は10/21−22で稲刈りをします。ご参加をお待ちしています。