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愛林館田援計画(でんえんプロジェクト)
第5回 グリーンセミナー 「棚田のがっこう」ご報告     

2004年6月5日(土)〜6日(日)


 

第5回愛林館グリーンセミナー「棚田のがっこう」は予定通り、6/5−6に開催しました。

6/5は、簡単な自己紹介の後、車で寒川水源まで上がり、水源の水を飲んだ後歩いて愛林館まで戻ります。寒川水源亭、養魚場、菖蒲園、取水堰、水路とゆっくりと見ながら歩きました。私はいつもお客さんを案内していますが、今回は広島県立大の前川助教授の解説を聞きながら歩きました。

農業土木が専門の前川氏のお話は、普段と違う視点が随所にあって面白かったです。水路を川から山の斜面に引く時には、なるべく傾斜を緩くして、水路の下に少しでも多く田を作ろうとすること、斜面の沢の水は、流れが激しいので田へ取り入れるのは危険が大きいからあまり利用されていないこと、田の水の入り口と出口が一つしかないということは、水田面が完全に平らであること、などなど。

水田は水を貯めるのですから、地面は当然水平であろうと思っていたのですが、最近の基盤整備田は用水路と排水路が別についていて、完全な水平ではないのだそうです。

寒川水源 寒川菖蒲園

最初に山を削って田を開いた時に出てきた石を積んで石垣ができているのですが、石垣の高さと田の幅(というか奥行きというか)がさほど変わらないような田もあります。ほとんど石ばかりしかなかった山の斜面を削って田を作る苦労はどれほどのものだったでしょうか。しかも、鍬とかご程度の道具と、人力と牛力しかない時代です。。。石垣積み教室を4回開催してわかったことに、「石垣積みの作業の8割は材料の運搬である」ということがあります。ユンボと軽トラックのない作業など、今や考えられないのですが。

しかし、「石垣積みの作業は楽しい」ということもわかりました。米がほしいというだけでは、いかに勤勉な久木野の祖先も、あれだけの棚田は作れなかったと確信しています。

斜面の水路は、途中までは傾斜がほとんどなくて音もなく流れていますが、終点に近くなるとさらさらと水音が出ます。水路の傾斜がきつくなったということですね。取り入れ口では溢れんばかりの水量ですが、最後はほんのわずかです。途中で水を使うからですが、自分の田に充分に水が来るかどうか、さぞ心配だと思います。

水路 前川氏の説明を聞きながら

こういった説明を聞きながら、2時間半をかけてゆっくりと歩きました。途中には、最近まで維持されてきたけれど、おばあさんが亡くなって放置された水田もあります。最近まで裏作のサラダ玉ねぎが植わっていた水田もあります。ちなみに、その水田の石垣は高さ3.2m×長さ54m=173平方mという、このあたりで最大・最高のものです。

愛林館に戻り、5時から1時間ほど前川氏の講義を聴きました。広島県立大(三次市)の先生ですが、このところ年に数回愛林館に来ては、棚田の調査をしてくださっています。航空写真をもとに、それぞれの田の人間と水の出入りや隣の田との高低差を詳細に調べています。そういう工学的な調査と、所有者についての徳野氏の社会学的な調査が合体すると、いろいろと面白いことがわかりそうです。前川氏の講義は、実物を思い起こしながらOHPで写真を見ての解説ですから、よくわかりました。

講義の後は夕食。わずかに雨がぱらつきましたが、外で食べられて良かったです。今回から導入したタンドーリチキン(もっともタンドールはないのですが)も旨かったです。夕食後は徳野教授の講義も考えたのですが、結局なしにして、NHK熊本で放送した棚田の空中撮影映像と、99年に半年かけて収録した「もっちゃんのお米を作りたい!」のビデオを見ました。空中撮影は昨年の今頃の映像ですが、普段見ることのない角度からの映像は迫力があります。希望者は愛林館で見られますのでお申し出下さい。

さて、翌日は徳野氏の講義。日本の人口動態を長い目で見ると、明治時代に人口爆発があり、それに対応して食糧増産技術が発達したこと、農政も農学もそれを後押ししたこと(それでも人口が多かったから植民地へ出ていくわけですね)、1960年頃の高度経済成長までは、それである程度成功したこと、高度経済成長で日本人の大多数を占めていた農村人口が都市へ大移動して社会が大きく変わったこと、その変化に農政も農学も全然対応できていないことなどなど。

徳野氏の講義 寒川の棚田

ちなみに、日本の少子化(出生率が2.1以下)はいつから始まったか知っていますか? 実は1960(昭和35)年に2.0になっています。その後、65年、70年と2.2ですが75年からはまた2.0を下回って現在に至ります。40年前から始まった少子化に、行政や年金制度は最近になって大騒ぎしているというわけ。

今後、人口は日本全体で減るわけですから、その前提に立った地域づくりが必要になります。棚田保全については、現状の棚田をすべて保全するのは難しいでしょう。少ない人数でなるべく多くの棚田を保全するにはどうするのか、時には「そこは諦めてもこっちだけは残す」というあまり楽しくない議論もしなければならないでしょう、ということです。

私は氏の講義を聴いた回数では日本でも上位にランクインしますが、いつ聞いても退屈しません。

最後は、参加者のT君(Uターンして、ご両親の保育園経営を助ける)をネタに、「第2・第3のT君はどうしたら現れるのか」を皆で考えました。私が気に入ったアイディアは「同窓会を頻繁に開こう」というものです。これなら愛林館の仕事として早速取り組みたいものです。名簿管理、葉書発送などが面倒なんですが、コンピュータが1台あればいいし。

今回は、ちょっと少ない人数ではありましたが、前川・徳野両氏の専門家としてのお話を充分に味わうことができました。充実した時間でした。

では、次回は7/24−25の「森のがっこう」です。お楽しみに。
                                            (写真提供:高平雅由さん)



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